BICYCLE - sketch no.1 ~ 素晴らしき自転車の世界 ~





ある日、仕事の打ち合わせで訪問した、ディレクターH氏のデスクに貼ってあった
プロロードレーサー「ランス・アームストロング」のポスター。

原油高騰や地球温暖化問題の煽りから「自転車の見直し」風潮が、広く盛んになり
幹線道路の路駐車両をすり抜けるように走る「サイクリスト」が増えてきたのもこの頃。

そんな姿を見ては、何気なく自転車のある生活もいいな〜なんて考えていたけど
まさか、自分がロードレーサーにまたがって(ロードバイクとも呼ぶ)
まさか、頭の先からつま先まで、サイクルウェアを身にまとい
まさか、街から山へと駆けずっているとは、その時は、考えてもみなかった。

はじめに、我が家にやってきた相棒は「フルサスペンションのマウンテンバイク」
子供の頃、熱中していたRCカー(ラジコン)のオイルダンパーとは格が違う振動吸収性。
山でこそ、その威力は発揮するものの、街の道路は、まるで絨毯のようになってしまう。

大人になったら、いつかRCカーの改造パーツをしこたま買ってやろうと目論んでいた
その行き先は、しっかりとこの初代相棒へと引き継がれた。
自宅仕事部屋は、たちまち、パーツや専用工具など自転車機材で埋め尽くされることに。

仕事で使っている機材といえば、最先端のマックや筆記用具などで、そこから
ゴムやオイルの匂いなんかするはずもないのに、仕事場はすっかり油臭くなってしまった。
ここは、いったい何屋さんなのと、うたぐってしまうほどに。

そんな状況が、我慢ならなくなった。という理由ではないけど
ちょうどこの頃、そのごちゃ混ぜな自宅仕事部屋を、別の場所へ引っ越すことに。
それと同時に、ホビーサイクルから、本格的な「自転車通勤」へと幕が開けた。

その事がきっかけとなり、我が家のかつての仕事部屋には
早速、2代目相棒「ドロップハンドルのミニベロ(小径自転車)」がやってくる。

仕事部屋の引っ越しで、すっきりしたかと思われたその部屋は
初代、2代目、妻のマウンテンバイク、パーツや機材などで、再びあふれかえり
時すでに遅し、もう部屋ではなく「自転車小屋」になってしまった。

この2代目がやってきた理由は、私が暮らしている神戸の狭い町並みと山手の多い地形
また、仕事場までの通勤距離などがあいまって、より快適な通勤を目指すための世代交代。

初代相棒は、雨のぬかるんだ道での通勤や、山にトレイルに行くとなれば
すぐさま出動体勢を取るので、出番が少なくなったとはいえ、淋しくはないはず。
ただ、静かにその時を待ち、常勤は2代目に任せることになった。

2代目は、初代の26インチセミスリックタイヤ(太くミゾがある)に対して
20インチスリックタイヤ(細くミゾがない)。径は小さいものの、小回りが効く優れもの。

またなにより、初代と比べれば、車体重量が軽い。(10kg)
正確に言うと、この重量になったのも「改造癖」のたまもので、少し軽量化を施したため。
自転車小屋まで、片手で軽々と持ち込むことができるようになった。

また、初代のフラットバーハンドル(ほぼ一文字の直線形状)に対して
2代目は、ドロップハンドル(傘の柄のように下に円弧を描く形状)なので
様々なハンドルポジションを取ることができ、体勢を起こした楽な姿勢をもできれば
前傾姿勢で空気抵抗を少なくして、すいすいと高速巡航をすることもできる。

そして、そんな自転車通勤が、楽しく快適なゆえ、夏の暑さにもめげず
冬の寒さにもめげずにやっていると、次第に、体が出来上がってくるようになった。
加えて言うと、体が「自転車用」に仕上がっていく様が、実感できるようになってきた。

これは、自転車通勤のルートが、平地あり、山手ありの中距離コース。
また、毎日継続してやるという事が、功を奏したのかもしれない。
いくらペダルを漕いでも、そう疲れない体になり、その様はすでに
自転車通勤という言葉に取って代わって、毎日のサイクルスポーツになっていった。

サイクルスポーツといえば、競輪やトラック競技、ロードレースやダウンヒルなど様々で
その中でも花形と言えるロードレースやその自転車の歴史に関心がいくようになった。
そう、H氏が飾っていた、ランス・アームストロングもまさにその最たる象徴。

こうくれば、おのずと我が家にも3代目相棒がやってくる。
プロロード選手がまたがっているような、最先端モノコックカーボンバイク。

と言いたいところだけど、これは、心の中で想っている言葉。
このカーボンロードバイクに乗るということは、毎日仕事場に向かうのに
フォーミュラカーで行くようなもの。言うまでもなく、自転車界の最高級車。

だから、いつかは所有して颯爽と駆けずってみたいという、憧れの的であり
街で白ひげをたくわえて、ハーレーにまたがる格好いい老紳士のように
私は、白ひげをたくわえて、カーボンロードバイクにまたがるという姿を夢見ている。

とはいえ、やはり3代目はやってきた。2代目の兄貴分としてやってきた。
クロモリ(クロムモリブデン鋼)フレームのロードレーサーが。

ここまでくれば、もう細かい説明はあえて割愛して、あとにはもう引き返すことのない
〜 素晴らしき自転車の世界 〜 に入ってきてしまっている。

自宅の一部屋が、自転車小屋になってしまっていると聞くと
もうすでに、頭の先までこの世界に浸かっているように思えるかもしれないけど
実はまだ、片足をつけた足湯状態。これでも、心底体は温まっていないのです。

自転車のご先祖様が誕生されたと言われる年から、すでに200年強。
その間、何十年とこの世界を楽しんでいる「先輩サイクリスト」からしてみれば
私は、まだまだ新参者。この世界の入り口にやっと出会えたに過ぎないようなもの。

そんな私でも、ただひとつわかっていることは
この世界の奥深さを知っていくという事は、そう容易く手に入れることはできないもの。
ゆっくりと時間をかけて、みっちりと体を使って、しっかりと頭を使って
良きサイクリストの教えを学び、良き自転車に出会い、自分の相棒を育てていく。

それが、〜 素晴らしき自転車の世界 〜 の教えだということ。

そう、あとひとつわかっていることがあります。
そう行き過ぎない程度の負担で、快適な自転車生活を始めるだけで
体が、まるで空を飛んでいるようになってきますよ。

自転車のメカニックや歴史などに傾倒してしまう「自転車依存症」に
なってしまいましたが、体の重量は、2代目相棒、2台分、軽くなりました。


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